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教材研究から見えてきた町探検の魅力

東京都八王子市立由井第三小学校

主幹教諭 八木美香

大所帯だった前任校では、学年担任全員で「町探検」の再構築のために地域開発から行い、地域の人材、素材を改めて発掘し直し、年度が変わっても継続できるように取り組みました。

その頃に、生活科や総合のように単元の構成から教師が関わることができるという充実感を味わい、その魅力に気付いてくれた仲間ができたことが、現在の私の宝です。

今回、久々に町探検の教材研究に関わる機会を得ました。その中で、何が魅力なのか、何が必要なのかについて、当事者ではない立場から改めて考えることができたので、そのことについて整理してみようと思います。

子どもの思いや願いに沿って単元を構成していくのは言うまでもありません。しかし、子どもの思いや願いに沿うあまりに「子どもの反応が今の段階ではつかみきれていないから、その先はどうなるか分からない」という状況が生じます。そうなると、単元を構成することができないどころか、「子どもの思いや願いに沿う」という大義名分により単元のねらいも定まらないことになりかねません。

あくまで学校の教育活動であるからには、決められた時数の範囲内で、子どもが「先生の指示通り活動した」ではなく、「自分の思いや願いに沿って活動できた!」という満足感を味わいながらも、自分の町に誇りをもったり、町の人に憧れを感じたりして、自立に向けて大きく成長する姿を引き出したいと思います。

その際に、授業をつくる先生(授業者)自身が、前年度通り、教科書の通り、先輩の先生からの指示通りに準備するだけで、先生自身が「させられた感」を抱いていては、「子どもの思いや願いに沿う」という言葉に、大きな矛盾を感じ、振り回されてしまいます。

訪問先との予定調整、サポートしてもらう先生や保護者の方との予定調整、校外学習届の作成などの外部とのやりとりに疲れ果て……。子どもたちには、訪問先でのインタビューの言葉を考えさせ、練習させ、これまた疲れ果て……。

「『町探検』は大変だから1回で十分でしょう。教科書には、2回行くように書いてある? こんなに大変な準備を2回するの? 校外での活動のリスクも考えると……」と徐々に省略していく流れになることも。生活科は教科です。内容があります。町探検をやらないということは、2年生の算数で言い換えたら、「4のだんと7のだんがややこしいから、省きましょう」ということと同じです。

それが分かっているからこそ、まじめな先生たちは、前年度通り、教科書の通り、先輩の先生からの指示通りに、疲弊しながらも黙々と準備をします。させられた感が満載です。先生(授業者)自身が楽しさを感じない学習活動に、子どもが魅力を感じるわけがありません

今回、市の研究会において「町探検」の授業研究の授業者として名乗りをあげたフレッシュな先生(以下、A先生)が現れました。A先生は2年生の担任は初めて、「町探検」も初めてです。さらにA先生の学年は1学級で、切羽詰まっても相談する同学年の先生もいません。

A先生は、前年度の取り組みを調べて「◯軒の訪問先があるから、子どもを○グループに分けて、インタビューしてくる」というイメージをもっているものの、「全訪問先にお願いして、時間調整をして、インタビューを受けてくれるだろうか……」とかわいそうなくらい困っていました。

「子どもたちに人気のパン屋があるんです。でも、そこのパン屋は断られてしまいました。どうもインタビューが苦手らしいのです……」

そんな話を聞きながら、A先生はこのパン屋さんに魅力を感じていると直感した私は、「一緒に教材研究させて!」と名乗り出ました。その後、仲間の先生たちとA先生のところに押しかけて、パン屋への依頼に再度挑戦!

子どもたちに人気の目玉焼きトーストが並ぶ町のパン屋さん
子どもたちに人気の目玉焼きトーストが並ぶ町のパン屋さん

子どもたち曰く「名物は『目玉焼きトースト』」らしい。入店直後、レジにいらしたパン屋の奥様に「評判の『目玉焼きトースト』を買いにきました! この先生のクラスの子どもたちイチオシなんですって」と話しかけました。

すると奥からご主人も登場して、「子どもたちがオヤツとして買えるくらいの値段にしているから」「パンだけじゃなくて、駄菓子も置いているのは子どもたちのためなんだ」と話し始めました。そしてなんと!パン屋のご主人は、A先生の勤務校の卒業生だという事実が判明しました。

その後、蕎麦屋、焼肉屋、コンビニ……と教材研究が広がっていきました。A先生自身がワクワク探しをしているようでした。その後、A先生は、子どもたちのワクワクを引き出すようなスライドをたくさんつくりました。「こうやって見せたら子どもたち、喜ぶかな。見せすぎかな?」「ここに気付いてくれるかな?」。つくったスライドを子どもたちに見せる前に、私たち研究仲間に見せて意見を聞く姿から、先生自身が町探検を楽しめている様子が見て取れました

A先生の場合は、当初、「訪問先には打ち合わせに行く」というイメージがあり、「日程や時間調整をしなくては!」と思っていたようです。それが、私の図々しい(?)トークでお店の人と仲良くなる姿から、まず、自分が訪問先のことをよく知ることの大切さに気付いたようです。相手のことをよく知りたいと思ったら、相手の様子をよく見ます。今は、忙しい時間帯なのか。今ならじっくり話せそうか。忙しそうならば、「出直してきまーす!」とすぐに失礼します。じっくり話し始めてくださったら、「それで?」「これは?」と知りたいオーラ満載でトークを展開します。

「毎年、訪問してくるけど、もう、話すことなんかないよ」と言いつつ、表情は柔らかなお花屋さん。「木にも親子があるんだよ。『実生』って言うんだよ。先生ならそのくらい知っていてよ」と言いながらも、ニコニコの表情のまま、まだまだ話してくれそうです。A先生は、その後もこのお花屋さんに通っている形跡がデジカメの記録から見えてきました。

町探検の候補のお花屋さん
町探検の候補のお花屋さん
お花屋さんを撮影し、町探検の導入に使用したスライド
お花屋さんを撮影し、町探検の導入に使用したスライド

後日、子どもたちと一緒に訪問した「目玉焼きトースト」が人気のパン屋さん
後日、子どもたちと一緒に訪問した「目玉焼きトースト」が人気のパン屋さん

生活科「町探検」の教材研究を通じて、研究に取り組んだ先生が町をもっと好きになるという姿を見て、幸せな気持ちになりました。そして、ハッと我に返り、今の自分の学級での授業づくりにつなげていこうと思うのでした。

つづく

さとえ学園小学校 やまなかせんせい プロフィール画像

東京都八王子市立由井第三小学校

主幹教諭 八木 美香


なぜ、小学校の先生に?

元々はピアノの勉強をしていました。子どもたちと歌ったり、踊ったりすることが大好き。体を動かすことが大好き。お出かけすることが大好き。工作することも大好き。子ども一人ひとりの「楽しい♪」の表情が何より大好き。

my belief

「楽しい♪」の中に学びあり。