東京都港区立芝浦小学校 主任教諭 八木 美香
新年度が始まり、2か月が過ぎました。今年度の自分の「きょうだいさん」への関心が高まっている2年生。昨年度、1年生の時に2年生の「きょうだいさん」がしてくれたことを思い出します。
「入学してすぐに、折り紙のメダルをプレゼントしてもらった。」「学校の中を案内してもらった。」「遊びの会に招待してもらった。」「音読を聞かせてくれた。」
と、昨年度の自分のきょうだいさんの名前を言いながら、思い出話に花を咲かせていました。そこで、『きょうだいさんにしてあげたいこと』という題で話し合いをしました。まず、きょうだいさんに学校の中を案内してあげようということになりました。
□1年生の「学校探検」の導入部分で、2年生が学校を案内してあげるという活動
ここ数年、本校で行われている活動で、年間指導計画にも位置付いています。年間計画に位置付いているからという理由で「これから1年生に学校案内します。」と、教師主導で単元をスタートさせるのではなく、子どもの思いや願いを引き出しながら、教師が子どもと一緒に活動をつくっていくことを大切にしています。今回は、そのことについて書いていこうと思います。
私が勤務している学校は、学級数が多く、子どもたちそれぞれの思いや願いから学習活動を組み立てることが本質ですが、一方で、諸事情から各学級で行われる学習活動を同質にしていくことも求められます。
当然ですが、それぞれの子どもから思いや願いを聞き出していたら同じ活動にはなりません。しかし、学級数の多い学校で同じ学習内容、同質の学習活動にするには、教師から「次は、これをやります。」としたほうが無難だ、と考えてしまうと、生活科の特性である“子どもの思いや願いに寄り添う”ことから、かけ離れてしまいます。
そこで、「子どもの思いや願いを引き出す+学年の複数学級の学習活動を同質にする」ためには、教材研究が大変重要になります。
今年度、1年生に学校案内をしてあげる2年生の活動をつくるにあたって取り組んだことを振り返ってみます。2学年の生活科を企画運営する担当の私が、まず、考えたことは以下の3点。
1.きょうだいさん活動(1対1活動)で行う。
ここは譲らないでいこうと決めていました。1対1での活動にすることで、子どもの姿に驚かされるエピソードが何度でも生まれます。例えば、「教室の中では、とても物静かな子どもだが、自分のきょうだいさん(1年生)の顔をのぞき込んで『すごいでしょ?』と話しかけてにっこりしていた。」など。
2.2年生の思いや願いを引き出し、自分の思いや願いをもとに1年生を案内する。
1対1の活動を行うからには、自分のきょうだいさんにしてあげたいことにこだわらせてあげたいものです。教材研究の段階で、同僚の教師から「何をさせればいいんですか。」と聞かれることがありますが、考えることは子どもも同じです。「何をしてあげたらいいかなあ。」と、なかなか思いつかない子ども。これに対して、ニコニコしながら「何をしてあげようかぁ……。」と返します。すると、「どうしようかな。」と自分で考え始めたり、周りの友だちの活動の様子を見始めたりします。無理なく自然に,子どもが主体的に考えたり、対話が生まれたりするよう、なげかけをすることが大切です。
3.各担任の思いや願い、こだわりを尊重する。
夕方の職員室。活動が充実してくると「うちはこんな感じになってきました。」と話に花が咲きます。話し合い活動の指導が得意な教師からは、「入学の時のお祝いのプレゼントのメダルよりも、ゴージャスなメダルをつくるということで盛り上がり始めたら、メダルじゃなくて、首からさげる形つながりで、案内する場所のチェック表に進化したんです。」という声が、読書指導を日常的に行っている教師からは、「カードに絵本の絵を描いて、図書室で本探しする企画を考えた子どもがいます。」などの声が聞こえてきました。それを聞いていた新卒フレッシュ教師からは、「どうやったら、そういうオリジナルの発想を引き出せるんですか。」という質問が。自然と熱心な学年会に発展する一幕もありました。このように、教師がリラックスして話し合える環境をつくることも大切だと思います。
ところで、これら3点のことを、私から一方的に「こうやりましょう」と各担任へ伝えたわけではありません。
この時点で4月半ば。年間指導計画に「1年生への学校案内」と書かれていましたので、それぞれの担任に心づもりはありました。そこで私から、「いつやれますか。1年生のきょうだい学級の担任の先生と予定調整をしましょう。」と呼びかけ、それぞれの担任が具体的に考え始められるようにしました。
実現へのプロセスは次の通りです。
「1.きょうだいさん活動(1対1活動)」の実現により、「2.2年生の思いや願いを引き出し、自分の思いや願いをもとに1年生を案内する」につなげる。「3.各担任の思いや願い、こだわりを尊重する」は、各担任の特性、得意分野、学級の特徴を尊重していくことで実現していく。
もう少し具体的に説明します。
まず、「1.きょうだいさん活動(1対1活動)」の実現から始めました。
2年生は、この活動までに1年生のきょうだいさんと顔合わせをして、入学祝いの折り紙のプレゼントを渡したり、1年生から「初めて書いた名前」のプレゼントをもらったりしていることや、2年生自身が昨年度の経験から1対1で学校案内をしてもらった経験があることなどの条件に鑑み、きょうだいさん活動(1対1活動)で行うことを各担任がイメージします。
昨年度の活動を知らない担任は、1対1の活動になることに不安を感じることもありました。
ここで “百聞は一見にしかず” です。
私の学級で行った“リハーサル”の活動を、学年の各担任に呼びかけて、チラリと見てもらったり、撮った写真を見せたりしました。
このあとに、きょうだいさんとの顔合わせの活動のときの2年生一人ひとりの様子を思い起こしてもらい、2年生それぞれの成長に十分期待できるということを説明しました。さらには、昨年度や一昨年度の2年生の成長についての具体的な成果を伝えました。
尚、1対1でなく、班どうしなどグループごとの活動になると、自分のきょうだいさんに対する責任意識が弱くなってしまいます。グループごとに案内することにした年では、グループ全員で活動しきれずに分かれてしまったり、にぎやかになりすぎてしまったりして、2年生として1年生のきょうだいさんに自分の思いや願いを伝えようとするところまで至らなかった事例があることも同時に各担任へ伝え、1対1での活動の価値付けを説明しました。
さて、自分のきょうだいさんを学校案内するにあたっては、次の点がポイントです。
・案内する2年生がどのような思いをもっているかを十分聞き取ること
・準備段階で、何をやるかを決めるだけではなく“リハーサル”を行いながら、子ども自身が活動を充実させていくこと
そこで、1年生のきょうだい学級の担任との予定調整へ動き出す前に、これらを踏まえて十分に準備できるような日程を決める必要があることを伝えました。
実際に“リハーサル”を行い、そのことを子どもたちが丁寧に振り返りました。すると、活動時間内に案内できるよう、案内する場所を厳選すること、歩くときのマナーについては2年生自身が実践して1年生のきょうだいさんに見せるのが効果的であること、などの意見が出て、活動内容がより充実していきました。
各担任との一連のやり取りの中で、学年での学習活動づくりは、授業を運営する教師自身が、必要性を感じて自ら動きたくなる環境づくりをすることが大切であることを実感しました。
そして、全学級、きょうだいさん活動(1対1活動)で学校内を案内し、学級の足並みをそろえながらも、子ども一人ひとりの思いや願いを大切にした学習活動になりました。
・実際に行ったこと(各学級で特徴的だった活動)
-2年〇組:招待状(折り紙プレゼント付き)+クイズ、地図、チェック表
-2年●組:プレゼント(招待状付き)+2年生の教室に案内
-2年□組:招待状+教室で読み聞かせ+図書室で本探し
-2年■組:プレゼント(招待状付き)+折り紙で遊ぶ
つづく
東京都港区立芝浦小学校
主任教諭 八木 美香
なぜ、小学校の先生に?
元々はピアノの勉強をしていました。子どもたちと歌ったり、踊ったりすることが大好き。体を動かすことが大好き。お出かけすることが大好き。工作することも大好き。子ども一人ひとりの「楽しい♪」の表情が何より大好き。
my belief
「楽しい♪」の中に学びあり。