これからの時代に必要な消費者教育の視点を授業に取り入れると(1)

兵庫県たつの市立新宮小学校

主幹教諭 石堂裕

明けましておめでとうございます。新型コロナウイルス感染症の収束の目処が立たないままでの新学期となりますが、感染対策をしながら、これからの時代に必要な力を育むべき学習を子どもたちとともに創りたいと思います。

さて、2021年の最初にお届けするテーマを探った際、学校現場で扱う課題教育の多くと関わる「消費者教育」がふさわしいと思いました。この教育においては、SDGs(国連で採択された持続可能な開発目標)が注目されたことで、ネットモラルに加えて、「フェアトレード」「食品ロス」「エシカル消費」といったキーワードとともに、子どもたちの消費生活と関わることがクローズアップされました。これからの時代を創る子どもたちには、「よりよい生き方を見つけ、よりよい社会を創る担い手となること」が期待されています。だからこそ、子どもたちが自立した消費者として、安全・安心な消費生活を過ごせるように、幼児教育から高等学校教育までのすべての発達段階で必要な消費者教育が施されることが求められているのです。

この教育については、すでに家庭科や社会科などの学習内容と関連した実践が多く紹介されていますので、今回は「算数」に位置付けた実践(小学校3年生)を取り上げたいと思います。この学習に入る前の子どもたちの既有の知識の主なものは次のとおりです。一つが社会科の「つくる仕事、売る仕事」単元でのパフォーマンス課題を追究する過程で取り上げた「食品ロス」や「エシカル消費」についての知識で、もう一つが算数についての3けた×1けたや3けた÷1けたの計算の知識です。

 図1:本時の作問
図1:本時の作問

さて、子どもたちの生活場面でありそうな場面を想定して作問したのが図1です。まず、みんながどちらの意見なのかを明らかにすることを重視しました。生活科や総合的な学習の時間でも大切にされていることですが、問題を自分ごとと捉えるためには立場を明らかにすることが効果的です。内発的な動機付けにはたらきかけられるからです。その際、立場が明らかになってから個別に理由を書き出させる方が、子どもたちは考えやすかったり、関心が持続したりすることもわかりました。

写真1:板書の様子
写真1:板書の様子

また、意見交流の場面では、1回目の意見交流の後、①を選んだ子が24人から10人、②を選んだ子が10人から24人に変わりました。その訳は、算数での既習の知識を根拠に説明した子の存在です(写真2)。その子の発言がきっかけで、写真1の板書にも示すように、理由に算数が用いられるようになりました。子どもたちは、相手を納得させようと思うとどんどん算数を使って根拠を説明するのです。写真1にあるように、板書には言葉の理由に算数の立式が付け加えられていきました。

写真2:算数での既習の知識を根拠に②がよいと説明した子の意見を受けて、子どもたちのノートの記述に見られる思考の変容
写真2:算数での既習の知識を根拠に②がよいと説明した子の意見を受けて、子どもたちのノートの記述に見られる思考の変容

最終的には、①が7人、②が27人になったのですが、そこには算数を超えて「エシカル消費」を根拠にした意見も出てきました。子どもたちが思考場面を実際の生活場面に置き換えた証拠です。あえて結論付けをすることなく、「お家の人はどうだろうね」と問うと、その日の下校後のコラボノートには、家族に取材した結果が書き出されました(写真3)。

写真3:コラボノートに書き出された取材結果(個人情報保護の観点から判読不可の画像処理をしています)
写真3:コラボノートに書き出された取材結果(個人情報保護の観点から判読不可の画像処理をしています)
図2:次時の作問
図2:次時の作問

ここまでの過程で、生活場面での算数の学習に広がりが見られました。すると次の時間(対面での学習)がポイントです。コラボノートの結果を振り返った後、今度は図2のような問題を提示しました。より「エシカル消費」や「食品ロス」を含む問題の提示によって消費生活とつなげることで、子どもたちの関心が高まっていきます。この時間の思考の様子やそこから冬季休業期間の消費生活とどう結びついたかは、次回に紹介します。

つづく

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兵庫県たつの市立新宮小学校

主幹教諭 石堂裕


なぜ、小学校の先生に?

身近な家族が教員だったため、小学生のころから「先生になる」と決めていました。小学校に決めたのは、教育実習での1年生との出会いです。授業の難しさを実感して、「もっと究めたい」と思ったことが、今も私自身を支えています。

my belief

「ピンチがチャンス!」

授業では、「ま(待つ)つ(つなげる)の(のせる)き(気付かせる)みと(認める)」