東京都八王子市立由井第三小学校
主任教諭 八木美香
以前、本ブログの執筆者でもある石堂裕先生の学校に見学に伺ったことがあります。学校中の子どもたち一人ひとりがとても意欲的に活動していることに驚きました。ニコニコ笑顔であいさつする子どもたち、友だちどうしの会話も爽やか、授業内での対話は充実、給食や清掃活動も和やかです。この雰囲気を支えているのは、学校の先生たち一人ひとりの熱心な授業づくり、学校づくりにあるということが石堂先生のお話からも感じ取ることができました。
年齢が若い先生、経験年数が浅い先生が増えている昨今。同じ境遇の先生が多く存在するということです。互いに影響し合うということは言うまでもありません。私は年齢的にそこに属することはないのですが、所属校の子どもたちの育ちを支える構成員の一人です。よりよい教師集団になるように、若い先生たちの良好な相互作用を支えたり、仕掛けたりする立場にあることを自覚する今日この頃です。
そこで、2回にわたって「若い先生たちの頑張り」をテーマに紹介しようと思います。今回は、校内研究研修での出来事を紹介します。
3学期になり、校内研究研修での今年度の成果を振り返り、次年度計画を立てる時期になりました。採用2年目の若いA先生がその話し合いの司会をすることになりました。
私はA先生に「ご自身は、次年度の研究をどうしたいですか」と聞いてみました。「どうしたい?」とは、とてもイジワルな質問です。さらに「教科ですか。それとも育てたい児童像ですか」と質問しました。
その校内研究の会議では、以下のプログラムが組まれていました。
- 低学年、中学年、高学年、特別支援学級各分科会からの今年度の活動報告の発表
- 次年度の研究について(グループ討議)
プログラムを見ると、1の「活動報告」は、2「次年度の研究」を考えるための基にするという構造になっているようですが、その理念が全職員に浸透している様子が伺えませんでした。そこで、司会をするA先生に、前述の八木からのイジワル質問を投げ掛け、「困り感」を実感してもらいたいと思いました。
A先生は、自分の授業、身近なトピックを思い起こしながら一生懸命考えていました。そこに、近くで聞いていたB先生が反応してくれました(実際には八木が無理やり、B先生に目を合わせてニヤリとしました)。
B先生が「えーっと、ぼくは……」と話し始めると、A先生が救われたような表情になり、B先生との会話が始まりました。
「自分の意見を言える力。重要ですよね」
「言えるということは、聞けるということから始まるのかな」
「話し合い活動? 学級会?」
八木がニコニコ、ニヤニヤしながら近くで見ているので、先生たちは、頭をフル回転で話の柱を探し、話を広げようとしています。そこで八木は「無理やり難題を振っちゃってごめんなさい」と、会話に割って入りました。
「『来年度どうする?』なんていうファジーな題だと考えにくいですよね」
「あわてて何て答えようかと、必死に考えちゃいますよね」
そう話すと、今度は、
「こんな状況で来年度一年間の研究内容について結論まで出すって、酷です」
と言うA先生とB先生の会話が始まりました。
A先生「事前に先生たちに本音を伺うアンケートを取ってみようかな」「今日は、金曜日。会議は水曜日。全員から回収できないかな」
B先生「直接聞いて回ったら?」
A先生「その方が早いな。全員に聞けるかな」
B先生「手伝うよ。本音をまとめて資料にすれば、考えるきっかけになるよね」
八木「私も手伝う!」
さらに、三人でこんなやり取りをして自席に戻りました。
「アンケートのお題は、『①自分の学級、関わった子どもたちの実態を踏まえて、この学校の子どもに付けていきたい力は?』『②それを実現するには、どんなことを研究したい?』でいいかな?」
「『研究したい?』ではなく、『勉強したい?』にしたほうが、フランクに考えられるかも」
「なるほどね」
「了解! その2点を聞くのね」
自席に戻った八木は、早速、目の前の席のC先生に声を掛けました。
八木「今、話しかけて良いですか? 突然ですが、水曜の会議の司会のA先生を助ける会を結成しました。会議がスムーズに行くように資料づくりをしたいから、ご協力お願いします。直接聞き取りアンケートです! まず、一つ目。先生の学級の子どもたちをイメージしてください! 今日のこと、昨日のこと、直近のエピソード……。それを踏まえて、子どもたちにこんな力が育つと良いなぁと思うことを答えてください」
C先生「え? 突然だね」
八木「そう。突然。あとで付け足し、変更OK! ピピっと来たことを答えてください。意外にそれが、頭の片隅にいつもあることかも! さぁ、5秒以内! 5、4、3……」
C先生「話し合い活動の時に挙手して発言しようとする子どもを増やしたい!」
八木先生「いいですね! では、二つ目……」
その後、隣の席のD先生のほうを向いて「D先生! 話しかけ……今は話しかけてはダメっぽかったですね。ごめんなさい」と続ける八木の様子を見ていたB先生が八木に話しかけてきました。
B先生「すぐに行動を起こせるんですね」
八木「『後で』にすると、行動を起こすことのハードルが高くなっちゃいますよ」
B先生「聞き方が工夫されていてスゴイと思いました」
八木「聞きたい柱は二つ。『聞き取る』を実現するために何でもしますよ! 相手の様子を見る、相手も楽しい気持ちになるために工夫をするのは、授業づくりとまったく同じです」
B先生「おおお……」
その後、B先生は、このやりとりの際に自らの授業での発問や、子ども一人ひとりへの対応について考えさせられたということをA先生やE先生に話していました。その後E先生は「八木先生。突撃アンケート受けたいでーす!」と来てくれました。
さらに、八木が所属している特別活動部の先生たちからは、ほぼ異口同音の回答が集まってきました。特別活動部は、部会での年度の振り返りや次年度計画の実施後であったからか、先生たちどうしで共有し合っていたので、頭の中が同じ感覚で整理されていたのだと思います。
そして迎えた水曜日。会議の日。
考える材料として……
- 前述の「プログラム1」の各分科会からの報告が「プログラム2」の話し合いの考える材料となることを位置付けるためのコメント(司会者より)
- 聞き取りアンケートを整理した資料
が用意されていました。
また、和やかに話せる工夫として……
各分科会が混ざって話し合うためのグループ編成において、くじびきをしたり、座席にマンガキャラクターのカードが用意してあって,それを用いたりしました(カードは、「各グループの水色ネコ型ロボットさん、発表してください」「ネズミキャラさん、文具の片付けお願いします」と活用します)。
最初の質問から数日の短期間で、若い先生がアイディアを絞った会議準備がされていました。
つづく
東京都八王子市立由井第三小学校
主任教諭 八木 美香
なぜ、小学校の先生に?
元々はピアノの勉強をしていました。子どもたちと歌ったり、踊ったりすることが大好き。体を動かすことが大好き。お出かけすることが大好き。工作することも大好き。子ども一人ひとりの「楽しい♪」の表情が何より大好き。
my belief
「楽しい♪」の中に学びあり。