常に学習者でいたいな

兵庫県たつの市立龍野小学校

教頭 石堂裕

勤務校には、隣接する二つの歴史資料館があります。この秋、そこでは、龍野藩主の脇坂家や三木露風に関する特別展や講演会が開催されました。子どもたちとの学習に活かすことができるかどうかを探る教材研究を第一の目的として、私もほぼ参加をしました。そこで得た情報をもとに教材化し3年生以上の学年で実践してきました。今回は、3年生での授業の様子を少し紹介したいと思います。

3年生では、前回、「天声こども語」を活用した授業を紹介しましたが、あの授業をきっかけに、「赤とんぼ」についての探究的な学習が始まりました。子どもたち自身で調査したことをもとに、地元の専門家の方と交流したり、隣接する龍野城でアキアカネのメスを捕獲し、産卵させたりしました。

学習活動が卵の越冬計画まで進んだことから、私は昆虫の視点からのアプローチとは異なる視点から子どもたちの思考する様子をとらえようとしました。そこで、話題提供したのが、子どもたちが毎日耳にする童謡「赤とんぼ」の歌詞です。「夕焼け小焼けの赤とんぼ」で始まる歌詞ですが、三木露風が『樫の実』に発表した当初は、「夕焼け小焼けの山の空」から始まっていたようです。講演会でそのことを知った時、「なるほど」と思うと同時に、「もし3年生で授業するなら」、「もし6年生で授業するなら」と発達段階及び既有の知識が異なる二つの学年での使用について想定していました。

実際の授業では、3年生の場合、数か所変更している全体をとらえると、全員が参加しづらくなることが予想できるため、歌詞の一部を取り上げることにしました。最初に「夕焼け小焼けの赤とんぼ」と板書し、「もともとの歌はどこかが違っていたよ。どこだと思うかな」と問い掛けてみました。すると子どもたちの予想は「小焼け」8人、「赤とんぼ」13人でした。

まず「『小焼け』って何かな」と聞くと、さっそく国語辞典で調べる子がいました。載っていないことを確認すると、みんなはネット検索をし、意味をもたない言葉だということや「なかよしこよし」の「こよし」も同じだということに気付いていきます。

資料1 国語辞典、ネット検索の順で、解を探る子どもたち
資料1 国語辞典、ネット検索の順で、解を探る子どもたち

「夕焼け小焼け」がまとまりの言葉だと分かると、子どもたちは「赤とんぼ」にかわる言葉を考え始めます。最初のうちは、5文字の言葉が手がかりだったのですが、みんなが思いつく5文字を入れて歌っているうちに、歌う声の大きさや表情がよくなり、関心をもち始めたのが伝わってきました。すると、みんなの予想も「あかいそら」や「あきのやま」といった景色につながる言葉へとかわり始めます。そのタイミングで、実際の歌詞を提示したところ、「あっ!『山の空』や」といったつぶやきが聞こえてきました。

ちなみに、本校は2クラスなので、もう一つのクラスでは、問いづくりまでのアプローチをかえると「えっ?『山の空』や」といったつぶやきでした。「あっ!」と「えっ?」のつぶやきの違いには導入段階でのアプローチが大きく関係しているのだと実感しました。

写真1 歌詞の違いに気づき、つぶやく子
写真1 歌詞の違いに気づき、つぶやく子

さて、子どもたちの関心が高まると、問いづくりもスムーズです(資料2)。

資料2 みんなで決めた問いとそのタイミング
資料2 みんなで決めた問いとそのタイミング

問いの解決に向けて個人で予想する過程で取り入れたのが、露風が子守姐やに背負われて見たであろう景色を共有する時間です(写真2)。本校の3階は露風の生家(本校と50m以内の距離)より少し高く、龍野城より低い位置にありますが、仮に露風が龍野城の広場から見ていた景色を思い浮かべたとしても、子どもたちの目に映る山々や空は露風の幼い頃と変わりません。「これが教室でできるのは龍野小学校だけだね」といった言葉も添えながら言葉のイメージを広げる機会をもちました。そして、個人の予想をもとに全体での対話の時間へと入りました。発言の様子を聞いていると「子どもたちってすごい!」と思いました。だって講演会で研究者が解説したコメントと同様の言葉が飛び交っているので。

写真2 露風が見たであろう景色を共有
写真2 露風が見たであろう景色を共有

資料 3 個人の予想をもとにクラス全体での深ぼりタイム
資料 3 個人の予想をもとにクラス全体での深ぼりタイム

この秋、私自身が学習者として学んだことを子どもたちとともに学習する過程で、子どもたちの言葉には、風景や色合いがしっかりと込められていることを実感できました。あらためて子どもの言葉ってすてきだなと思えました。それと同時に、私は「常に学習者でいたいな」という思いもわき上がりました。

つづく

プロフィール

さとえ学園小学校 やまなかせんせい プロフィール画像

兵庫県たつの市立龍野小学校

教頭 石堂裕


なぜ、小学校の先生に?

身近な家族が教員だったため、小学生のころから「先生になる」と決めていました。小学校に決めたのは、教育実習での1年生との出会いです。授業の難しさを実感して、「もっと究めたい」と思ったことが、今も私自身を支えています。

my belief

「ピンチがチャンス!」

授業では、「ま(待つ)つ(つなげる)の(のせる)き(気付かせる)みと(認める)」