教頭の仕事 少し目先を変えることで

兵庫県たつの市立龍野小学校

教頭 石堂裕

10月下旬から毎朝ずっと続けていることがあります。それは校舎周辺道路の清掃です。きっかけは、これからの紅葉の季節に向けた学校の落ち葉対策についての匿名の電話でした。電話対応をし校長先生に報告をした後、「でも、これって『ピンチがチャンス』じゃないのかな」とプラスに考えてみました。「そういえば、学校の中だけの仕事になってしまっているぞ」と思い、翌朝から清掃を始めたのです。

龍野小は、国の重要伝統的建造物群保存地区にあり、秋は観光客が特に多いです。もちろん学校周辺にも観光客が来られます。写真1のように、どんなに掃いても、次の日は、また落ち葉でいっぱいになり、これを取り除いていないと、景観が損なわれ、地域の方にも迷惑をかけることになります。

朝も時間に追われているのですが、それでも、継続したいと思う理由があるのです。それは次に示す三つの効果です。

一つ目は自分自身の心が落ち着くことです。落ち葉を掃いた後にひらひらと舞う落ち葉の様子を見ていると「きれいだな」と感じます。職員室だけに居ると目の前の仕事に意識が向き、時間に追われるばかりですが、外の景色が冷静にしてくれます。ふり返ってみるとこの時間に浮かんだ考えが学校に役立つことが多いかなという印象です。

写真1 南門。相棒の道具とともに
写真1 南門。相棒の道具とともに

二つ目は、散歩する地域の方やこども園に弟や妹を送る保護者とのコミュニケーションの機会になることです。日常の会話だけでなく、学校への期待や子どもの相談ごとなど、様々です。「きっと教頭先生がいると思って……」とわざわざ時間を合わせてくださる方がいると、もう心もほかほかです。私の役職は、地域や家庭との連携をマネジメントする立場でもあります。特に相談ごとの場合は、私自身がどれだけ事実をつかんでいるかが大切になってきますが、本校の先生方は、クラスの子どもたちの様子を必ず報告してくれているので、そこは安心です。その結果、地域とも、家庭とも確実に風通しがよくなっていると思います。先生方に感謝ですね。

三つ目は、教材研究の場になることです。時期によって落ち葉の色も異なります。例えば、写真2は、前日に見つけた落ち葉を子どもたちに紹介しているところです。

私は朝、子どもたちが登校してくると各教室をまわって「おはよう」と声かけをしながら、子どもたちの朝の様子を確認し、その後、外掃除を行い、そして授業が始まると、また子どもたちの様子を確認するようにしています。

写真2 落ち葉から何が気付くかな
写真2 落ち葉から何が気付くかな

左は朝の挨拶の後、1年生の子に見せると「カメの甲羅みたい」とつぶやいているところです。一方、4年生以上には右のように2枚を比べて見せました。すると「葉の先から色が変わっている」「葉のすじのところに色が変わる原因があるのかな」といったつぶやきが聞こえ、6年生だと理科の学習と関連して「気孔のところが緑。水の通り道と関係していると思う」といったつぶやきが出ました。発達によって同じ葉でもつぶやきが異なるおもしろさがありますね。

また、3年生では、写真3のような授業をしました。その日は木枯らしが吹く寒い日だったので、「木枯らし」を取り上げました。「この風が吹くと葉が落ちてしまう」「落ち葉も茶色だ」「茶色って枯れ葉」。連想したつぶやきが続いたところで、「ところで、日本でできた漢字を国字というのだけれど、『こがらし』と読む国字を予想してみよう。一人で考えても友だちと考えてもいいよ」と問いかけると14個の予想(付箋)が出てきました。

写真3 漢字の学習から
写真3 漢字の学習から

最も多かったのは「楓」で7個ありました(ちなみに残りの3、4年生のクラスでも1番は「楓」でした)。どうやら「木」と「風」を組み合わせたようです。「『木』と『風』の組み合わせ、惜しい!」と言うと、みんなは、さらに考え出し、その中の一つに『凩』が出てきたところで、みんなでネット検索してみると、「あった」「なるほど」「本当や、国字って書いてある」と様々なつぶやきが聞こえました。答え合わせだけでなくしっかりと文も読んでいるからこそ、「国字」にも気付けたのですね。「ようし、じゃあ国字の問題を出すよ。(凧を黒板に書き)これって何と読むかな」と問うと、「風に関係していて……」、「どこかで見たぞ…あっ!『たこ』」。友だちの答えを聞くや否やネット検索する子もいます。「凧も国字なんや」「本当や、でも、なぜ『巾』かな」と疑問が浮かんだようです。「調べたら教えてね」と伝えるとさっそく調べていました。疑問がつながるっていいなあと思いました。

1月末、今日も朝の挨拶に始まり、掃除をします。今は校庭の赤い実がとても鮮やかで、桜の冬芽も順調です。心を落ち着けながら、さあどんな出会い、どんな授業を仕組もうかなと思うと、心がほっこりとしてきます。

つづく

プロフィール

さとえ学園小学校 やまなかせんせい プロフィール画像

兵庫県たつの市立龍野小学校

教頭 石堂裕


なぜ、小学校の先生に?

身近な家族が教員だったため、小学生のころから「先生になる」と決めていました。小学校に決めたのは、教育実習での1年生との出会いです。授業の難しさを実感して、「もっと究めたい」と思ったことが、今も私自身を支えています。

my belief

「ピンチがチャンス!」

授業では、「ま(待つ)つ(つなげる)の(のせる)き(気付かせる)みと(認める)」