座談会・生活科が10倍楽しくなる教科書

3.「学びの連続性」と「導入・振り返り」の徹底で学びが深まる

子どもたちにも先生にも、学びがずっとつながっていくことをイメージできる教科書を目指したわけです。(石堂裕)
子どもたちにも先生にも、学びがずっとつながっていくことをイメージできる教科書を目指したわけです。(石堂裕)

振り返りから次の学びへ。学習の流れをつくるということ

小笠原 教科書をつくるにあたって、私は振り返りから次の学習活動への流れを意識しました。「子どもがこういう振り返りをしたら、きっと次にこう言うと思う」という流れです。子どもの姿を思い浮かべながら、そこが自然な流れとしてつながっていくように、配慮しました。

石堂 場面構成のなかで、どう次へつないでいくのかも、ずっと考え続けましたよね。基本は生活科にある「学びの連続性」。これは総合的な学習の時間にも、他の教科にもつながっていきます。学びがずっとつながっていくことが、子どもたちにも先生にも、確実にイメージできる教科書を目指したわけです

下巻14・15ページは、「みんながつかう場所へ行ってみよう」という小単元です。生活科では、地域のいろいろな場所へ施設訪問をしますが、あらかじめ用意した「問い」とは別に、その場へ行ったことで生まれる気付きもたくさんあります。15ページでは、図書室を訪問し、たくさんの本がぎっしり棚に並んでいるのを見た子どもが、「(図書室に)本は何さつあるのかな?」と振り返る。そして次のページをパッとめくると、次の小単元が、「もういちど行ってみよう」と呼びかけてくる。気付きや疑問から、次の活動が始まっていくのです。

2020年度版 生活科教科書下巻p.14-15
2020年度版 生活科教科書下巻p.14-15

小笠原 そして「もういちど行ってみよう」では、今度は図書室で働く人との関わりが出てきます。私の学校でも、最初の訪問では、そこに置いてあるものへの気付きが多かった。でも、「もういちど行ってみよう」で再訪問すると、この図書室にはこんなにすてきな人がいるんだと、関心が"人"へと広がってきました。そういう流れも、今回の教科書では上手におさえられたと思います。

石堂 見学に行ったあと、一人ひとり感想を書くじゃないですか。その一人ひとりの振り返りが、みんなの気付きになっていくという流れもありますよ。「みんながつかう場所へ行ってみよう」、「もういちど行ってみよう」と学びを重ねて、次に来る「たんけんをふりかえろう」(下巻18・19ページ)に、それがよく表れています。これはたまたま冒頭でも触れた、板書のイラストが掲載されているページですが、一人ひとりの気付きを、黒板のYチャートに分類しながらまとめることで、みんなの気付きに変えていく授業の様子が描かれています。シンプルだけれど、とても重要な流れです。

2020年度版 生活科教科書下巻p.18-19
2020年度版 生活科教科書下巻p.18-19

山中 今回の教科書では、見開きページの右下に、随所で「ふりかえり」カードを載せて課題を示し、そこから次の学習につなぐ流れをつくるようにしましたよね。「ふりかえり」カードは、教科書のなかの子どもたちが、活動を振り返りって書いたカードなので、それを見て自分たちもその小単元の振り返りができます。

もう一つ、同じく見開きページの右下に載っている「学びのまど」コーナーは、「ふりかえる つなげる」と書いてある通りで、イラストと吹き出しを使って、活動から次の課題をすくいあげたり、実生活につなげたりするためのヒントを紹介しています。

石堂 学習で大切なのは、学びをつなげていくことに加えて、主観をどう客観に変えていくか、いかに一人の気付きをみんなに広げていくかです。最初は教師の手立てが必要です。図書室を訪問して、子ども一人ひとりが思ったことは、断片的で、まだ共有化されていません。でも「たんけんをふりかえろう」にあるように、一人ひとりが気付いたり、思ったりした"断片"は、教室で発表して黒板に書き出すことで可視化され、みんなに"共有"されていくのです。

そして、そこでもまだ終わらないのが、この教科書のおもしろいところで、下巻20・21ページの「ポケット図かん」という見開きコーナーで、「町のこと もっと知りたいね」として、町にはもっともっといろんな施設があると紹介し、さらなる学習を促しているんですね。

八木 下巻99ページも、そのいい例です。「あそび名人になろう」という単元の最後のページなのに、右下にある「ふりかえる つなげる」の欄では、自分がつくったオモチャを手にした子どもが、「いっしょにあそぼう」と弟を誘っています。つくっただけで終わりではない、まだまだ続きがあるよ、ということなんですよね。

生活科は"生活"と結びつき、3年生以降の学習にもつながる

小笠原 生活科では、生活を楽しく豊かにしていくことが大切です。だから山中先生がおっしゃったように、自分自身の生活に生かすことを、かなり意識したつくりになっています。

石堂 生活科の最大の目的は、生活者を育てることなんです。だからこそ、教室外への広がりを意識することがすごく大切です。先ほど「町たんけん」の活動の話が出ましたが、3年生の最初でも町たんけんがあるでしょ。「あ、2年生の時、ここ見たよ!」という気持ちから、3年生でもその先の学習(社会科)にすんなり入っていける。そういったつながりの一助にも、生活科はなっていると思いますね。

山中 段階的な学びということでは、下巻で取り組む「町たんけん」の活動を、「町たんけん1」、「町たんけん2」と、2回に分けて掲載しています。下巻10ページから始まる「町たんけん1」では、公共施設にクラス全員で行き、町たんけんのノウハウを学ぶ。そして62ページからの「町たんけん2」では、今度はグループ単位で、町のいろんなところを訪ねてみる。

その経験は、社会科にもつなげていくことができるわけです。そのための手立ても埋め込んだし、ワークシートも真似して書けるようになっている。だからとにかくこの教科書に沿って、ぜひやってみてくださいと、私は言いたい(笑)。

石堂 新しい学習指導要領と教科書の関係がクローズアップされた時、教科書「を」教えるんじゃなくて、教科書「で」教えるようにと、すごく強調されましたよね。まさに山中先生が今、指摘されたことです。私たちのこの教科書は、探究の"プロセス"を伝えているんです。計画を立てて、実際に町たんけんに行ってみる。課題を見つけたら、もう一度行ってみる。その流れをはっきり見せることができたのは、とても効果的でした。

八木 若い先生たちが、この教科書の使い方を勉強することで、ほかの教科でも、教科書のとらえ方が理解しやすくなるかもしれませんね。

自分の学校に合った形で教科書を使おう

八木 ちょっと「町たんけん」に戻ると、2回に分けて取り上げた1回目は、訪問先が図書室で、2回目は町のいろいろなお店へのグループ訪問でしょ? 自分でもやってみて思ったけれど、まず公共施設、それから一般のお店という流れだと、子どもたちにも、それから先生たちにとっても、ハードルが低いのです。でき上がった教科書を見ながら、改めて本当にその通りだったなと思っています。

石堂 「町たんけん1」で、みんなで出かけると、この学習プロセスはこうやって動いていくんだとわかります。その後の「町たんけん2」では、グループ単位で出かけます。1と2に期間を置いて実施するようになっているので、1学期の「町たんけん1」と比べて、2学期の11月を過ぎる頃に行う「町たんけん2」では、子どもたちの思考レベルが目に見えて成長しています。ワークシートの文字量も増えるし、他の子どもの発言に同調したり、共感したりもするようになりますからね。

山中 こうした活動は、それぞれの学校の実態に応じて、できる範囲で行えばいいと思うんですよ。この教科書は、多様性を受け入れる教科書ですから

八木 うちの学校があるのは都心で、教科書に出てくるような自然環境にはないんです。ドングリを探すにも、わざわざ電車に乗って探しに出かけるしかない。でも、授業の組み立てや、その授業で何を目指すのか、子どもたちにどんな力をつけたいのか、何を評価するのかなどがわかっていれば、ドングリにこだわる必要はありません。自分の地域、自分の学校でできることで、応用すればいいのです。

 山中 上巻の74ページから始まる、「きせつとあそぼう」の秋の単元を見てください。この単元は、「きのう、お月見をしたよ」、「なつとはちがう虫のこえがしたよ」といった、子どもたちのつぶやきからスタートしています。これは、「自分のクラスの子どもたちのつぶやきから、課題をつくっていけばいいんだよ」という、先生に対するヒントです。

ドングリや大きな葉っぱが身近になくても、「学習のめあて」や具体的な学び方は、教科書できちんとおさえてあるので、この基本を押さえることで、活動を"学び"にすることができます。「うちの学校にはドングリはないけど、これがあるぞ!」というくらい、子どもたちが燃えてくれるとうれしいですよね。

2020年度版 生活科教科書上巻p.74
2020年度版 生活科教科書上巻p.74

"板書"に、徹底してこだわった意味とは?

石堂 冒頭でも触れましたが、今回の教科書では、板書や教室内の掲示物に、とてもこだわりましたよね。上巻56・57ページと74ページを見てください。同じ掲示物が載っているでしょ? ある授業で使ったものを、掲示物の形を借りて、別の授業の学びのヒントにしているんです。上巻56 ページというのは、1年生のまだ比較的早い段階で学ぶ単元なので、発達年齢を考え、幼稚園や保育所、こども園で馴染みのある絵やカードで、動植物などをグループ分けしているのも見て取れますね。

2020年度版 生活科教科書上巻p.56-57
2020年度版 生活科教科書上巻p.56-57

石堂 いっぽう、下巻50ページを見てください。2年生の7月くらいで学ぶこの単元には、情報をマトリックスで分類した板書が掲載されています。1年生の頃と比べると、ずいぶん進歩しました

2020年度版 生活科教科書下巻p.50
2020年度版 生活科教科書下巻p.50

山中 マトリックスは、子どもたちの思考を可視化するための、優れたツールです。低学年の子どもたちでは、ともすれば発言が空中戦のようになって、何を言っているのかわからなくなります。このページの板書は、子どもたちの思考を、子どもたち自身がきちんとわかるようにするための参考として、ぜひ教室で応用してほしいと思います。

小笠原 おもしろいことに、この下巻50ページのマトリックス、全部の項目が埋まっているわけではないんです。ここは「生きもののせわを考えよう」という小単元で、板書のマトリックスは、横軸がいろいろな生き物の名前を個別に書いた「列」、縦軸は、それぞれの生き物の飼育に必要な、容器に入れるもの、エサ、世話をするポイントを示す「行」で構成されています。でも一部のマスにしか書き込みがされていないので、メダカの世話のポイントや、アゲハチョウの餌が何かなど、空欄部分は子どもたちが考えていくことができるんですよ。なんだという認識を、若い先生たちももってくれるのではないでしょうか。

石堂 完成したマトリックスではなく、空欄がある状態での途中経過を見せたのがミソですよね。授業の雰囲気がリアルに伝わるし、子どもたちはきっと、「あれ? ここが抜けてるよ」と、目ざとく見つけますよ。そこで先生が、「本当だ、みんなはここに何が入ると思う?」と問いかけることで、学習が深まっていきます

 小笠原 「振り返りから次の学びへ」の話題として上がりましたが、「町たんけん」(下巻18・19ページ)でも、図書室訪問の活動後に、みんなの意見をまとめた板書が活躍しましたよね。一人ひとりの気付きを発表させながら、これは図書室の人のことだね、これは使う人のための工夫だね、これはルールやマナーのことだねと、三つに分けて、Yチャートにまとめたところを載せています。

2020年度版 生活科教科書下巻p.18-19
2020年度版 生活科教科書下巻p.18-19

 八木 今回の教科書は、板書の扱い方が総じてとてもよかったと思います。他にもカードやツールを使っていたり、掲示物が載っていたりしますから、こういういろんな工夫が必要なんだという認識を、若い先生たちももってくれるのではないでしょうか。

「生活科って、こんなに楽しい!」を伝える教科書に

山中 この教科書には、宝物がいっぱい隠れています。どうか宝探しのように使ってください。

八木 「この教科書、使ってみてね!絶対にいい授業がつくれるよ」。そう言って歩きたい気分です(笑)

石堂 1年のとき葉っぱのお面で遊んだ子が、2年生でも葉っぱのお面をつくっている。子どもは、過去の学びを覚えているんです。教師はそこにも気付いてあげたいですよね。この教科書に載っている写真のような場面を、自分の教室でも見かけたら、すかさず子どもをほめてあげてください。

小笠原 子どもたちがこの教科書を見ると、「こんなこともできるし、あんなこともできるんだ。私もやってみたい、ぼくならこうする」と思ってくれるでしょう。「子どもたちのこういう表情をたくさん見たい」と先生たちが思えるような、そういう写真や活動がたくさん載っています。先生にも子どもたちにも、「生活科ってこんなに楽しいんだ!」と感じてもらえる、この教科書がそのきっかけになることを願っています

文・田中洋子 撮影・綿貫淳弥


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